人は、発達に伴って感情が育ちます。
気になったものに近づき触れることで、驚き・喜び・楽しさなど経験します。手足を自分で動かせるようになると、阻止されることで怒りの気持ちも生じます。
養育者の抱っこから離れて赤ちゃんの移動能力は発達し、養育者と子どもの物理的距離は大きくなります。赤ちゃんが、距離を乗り越えて養育者に何かを伝えるために、泣いたり、大きな声を出したり、笑ったりして、感情は益々発達していきます。
赤ちゃんが世界を知ろうと探検・探索する時、危険や周囲が困ることがあって、頻繁に大人から禁止や制限を受けます。すると、怒りや恐れの感情を表すようになります。
1歳半以降から、他者の表情や様子から、他者の感情の状態を少しずつ読み取れるようになってきます。2歳後半になると、自分と他者では感情が違うことを気づき、理解できることも増えてきます。3,4歳になると、他者の願望に気づき、現実の状況が合っているか否かで、その人の感情を推測できるようになってきます。
他者の状況に身をおいて、その人の知っていることから感情を理解できるようになるのは5,6歳頃と言われています。
子育てでよくある課題は、
自我が目覚めた子どもに対し、衝動的な感情を制御できるようにしつける(教える)ことかもしれません。
書籍にある以下の文は、参考になります。
うれしい、悲しいといった自覚された感情の経験は基本的に主観的であり、自分自身の感情状態を知るのは自分だけである。このような感情状態に適切に名前をつけ、制御できるようになるためには環境からのフィードバックが欠かせない。
たとえば一緒に遊んで(略)腹を立ててしまった幼児は、怒りの感情にとらわれて相手の子どもを叩くかもしれない。このようなとき、養育者らが「おもちゃが欲しかったんだね」といってなだめたり、「怒っちゃったんだね、でもそんなことしたらだめだよ」と諭したりすることで、子どもは落ち着き、自分の内的状態(感情)に名前があることを知り、自分が感情を表出していること、さらにはそれを調節・制御する必要があることを学ぶ※1
感情抑制は(略)生じている問題の悪化を防ぎ自己を保護する、問題から一度距離を置くことができる、そして関係性の維持などの適応的側面を備えている※3
ただし、感情を抑制することだけが大事なわけではないようです。
以下のような指摘があります。
(感情)抑制を行うと、表出行動は抑えることができても、自律神経系の興奮はかえって高まってしまう(Gross,1998)。これは感情の抑制が負荷の高い認知的活動であるから〜。そのため、持続的・慢性的に感情の抑制を行う傾向のある個人は健康面で問題が多いとさえ報告されている。〜
感情制御には心のエネルギーともいうべき統制資源が必要〜。統制資源は、制御を続けると減少していき、いったん枯渇してしまうと回復に時間がかかると考えられている。※1
感情抑制者は陰性感情だけでなく、陽性感情までも抑制してしまうといった報告がある※3 コメント:陰性感情はネガティブな感情、養成感情はポジティブな感情
〜激しい、破壊的ともいえる感情は、実は早期に気づくべきマイナス感情に気づかず、抑圧したり、ためてしまった後であふれ出てくるもので、実は、もとは「好きでない感じ」や「困った感じ」であったことが多いです。〜
嫌な気持ちは発散させるだけでは意味がないのです。まずは、自分の正直な気持ちに気づき、次にそれをどうしたいかを考えてみましょう。もし、その後も嫌な気持ちを味わいたくないのであれば、嫌な気持ちになったことを伝え、相手に違う行動を取ってくれるように頼むことができます。〜
冷静に話すことは、感情を抜きに話すことではなく、自分の感情だけにとらわれたり、感情で相手を支配しようとしない話し方です。むしろ、話し合いには感情をきちんと把握し、大切にすることが不可欠です。そうすることで、いわゆる「感情的」にならず、有効な話し合いができるのです。※4
情動を制御することは、我慢をするという自己抑制の力を連想しがちだが、それだけではなく、自己主張し自分を表現する力の両方が含まれる。※2
児童期においては、できること・分かることを育てて、誇りや達成の感情をじゅうぶん経験することが、肯定的な自己を作り、対人関係や自律的に行動をコントロールする力の育ちにつながる。※2
感情がうまく制御できない、と自分を責める養育者のお話をよく伺います。
上に述べられている感情制御は、子どものことだけに向けられた話ではなく、大人にも当てはまります。
最後に、また書籍から引用します。
感情という適応のための脳のシステムは、あらかじめ備わっている。しかしそれを適切にコントロールしながら表出し、自分とは異なる他者の感情のありようを理解し、共感したり、他者とかかわる力は完成されたものとしてプログラムされてはいない。〜
発達の過程の中で、たくさんの人との関わりや活動を経験して獲得される。※2
感情の制御には、たくさんのかかわり・経験が必要です。
うまく制御できなかったことは、制御できるようになるための経験の一歩です。
うまくできなかったら、ポジティブ・ディシプリンモデルで検討し、対応を考えておきましょう。きっと次の機会には違う対応ができます。
制御がうまくできなくて、子どもに怒り過ぎてしまったときは、謝ることで、人間関係を取り戻す方法を子どもにお手本で見せる機会になります。
また怒った理由を説明し、自分の気持ちや状況を話し、子どもに理解してもらうチャンスにもなります。
そして、子どもに話す機会は、自分の正直な気持ちを気づくチャンスであり、気持ちを伝える練習になり、冷静に話すための経験値となります。
その繰り返しは、たくさんのかかわりとなって、やがて私たちだけでなく、子どもの感情の制御も導いてくれるでしょう。
引用:
※1大平英樹「感情心理学・入門」有斐閣アルマ
※2平山諭・保野孝弘「脳科学からみた機能の発達」 ミネルヴァ書房
※3樫村正美・岩満優美(2007)「感情抑制傾向尺度の作成の試み」
※4平木典子「自己カウンセリングとアサーションのすすめ」 金子書房