2022年 5月、弊団体の池田が行った大学院修士論文研究に関わる
「子育てに関するアンケート」に、 ご多忙中にもかかわらず多くの方に、ご協力いただきありがとうございました。
おかげさまで、研究を終え、大学院を修了することができました。
この度、簡単ではございますが、研究結果の一部をご紹介させて いただきます。また詳細な結果につきましては、今後本サイトに掲載する予定です。
今回ご報告する調査研究は、特に『子育ての考え方や感じ方と養育行動』についてお尋ねし、約2ヶ月の間に、考え方や感じ方、養育行動が変化するかを確認することを主な目的としていました。
山梨英和大学大学院人間文化研究科臨床心理学専攻
修士課程 池田詩子 指導教員 教授 佐柳信男
「子育ての考え方や感じ方が養育行動とどのように関連するか、
また変化するかの研究」
効果測定研究の結果
はじめに
東京23区内の幼稚園1園と名古屋市内の保育園1園の協力が得られ,園に通う保護者様39名のご意見を伺いました(回収率は保育園15%,幼稚園32%)。同時期に、前向き子育てプログラムであるポジティブ・ディシプリン®︎を受講している養育者の方37名にも、同様のアンケートにご協力をいただきました【調査研究2】。
もうひとつ別に行われた【調査研究1】では、2歳〜6歳の子どもの養育者(女性264名,男性273名)537名が、ウェブを用いた質問紙調査に参加してくださいました。
回答者
【調査1】回答した母親の年齢は、20代が14%、30代が51%、40代以上が36%でした。子どもの人数は1人が46%、2人が40%、3人以上が14%でした。父親については、本報告書では省略致します。
【調査2】回答者のほとんどが母親でした。年齢は30代が6割、40代が3割以上でした。
研究結果
研究結果から、以下のように4つの興味深いことが分かりましたので、簡単にご説明いたします。
1. 考え(信念)と行動の関わり ーたたかれた経験と今の信念と感情と行動ー
矢印の方向は因果の方向を示す
矢印の数値は、影響の大きさを示す
影響が大きいほど、矢印の線の太さが太い
矢印の実線は、影響が正の方向、点線は負の方向であることを示す
(*p<.05,**p<.01 ,***p<.001)
【調査研究1】から、
18歳未満にたたかれた頻度が多かった養育者ほど、体罰を容認しやすいことがわかりました。また、子どもの成長で一般的に見られる行動(泣きや自己主張、かんしゃくなど)を、「悪い子」だからと感じやすい傾向がありました。
女性と男性では若干の違いがあり、女性ではたたかれた頻度が多いほど、親になった時に、思い通りにしてくれない子どもの行動に対して、親を尊敬してないから(被害的認知)と感じがちでした。
体罰に対して容認するところがある養育者ほど、怒る頻度が多くなりがちでした。一方で、子育てに自信を持っている養育者ほど、怒る頻度が少ないという傾向が見られました。
よく怒る養育者ほど、子どもに対し怒鳴ったり叩いたりすることが示されました。一方で、子どもにスキンシップをしたり一緒に楽しんだりするようなポジティブな対応(肯定的応答性)をする養育者は、子育てに自信が持てている人だったり、子どもの成長で一般的に見られる行動(泣きや自己主張、かんしゃくなど)を「悪い子」だからとは捉えない傾向がありました。
2. 子育てプログラムの効果測定 その1 ー体罰の承認態度・否定的な子ども観・育児に対する自己効力ー
前向き子育てプログラムのポジティブ・ディシプリン®︎に参加された方には、体罰への考え方、子どもの行動への感じ方、子育てへの自信に、偶然とは言いがたい変化がありました。
プログラム参加者において、参加前と参加後では、体罰に対してより否定的に変化し、子どもの成長で一般的に見られる行動(泣きや自己主張、かんしゃくなど)を「悪い子」だからとは考えなくなり、子育てに対する自信が高まる傾向がありました。
一方で、プログラムに参加していなかった一般の養育者の方には、プログラム参加者と同程度の間隔(2ヶ月程度)を開けて、同じ質問をしたところ、変化がほとんどありませんでした【調査研究2】。
したがって、プログラム参加者の変化は、プログラムの効果だと考えられました。
3. 子育てプログラムの効果測定 その2 ー肯定的応答性・怒り・被害的認知ー
ポジティブ・ディシプリン®︎参加者のうち協力が得られた11名の方では、参加後に、思い通りにしてくれない子どもの行動に対して、親を尊敬してない・バカにしているなど被害的に感じること(被害的認知)は、少なくなりました。
子どもにスキンシップをしたり一緒に楽しんだりするようなポジティブな対応(肯定的応答性)は、プログラム参加前から、アンケートで最大得点であったため、参加後も変わらず高く、その結果、変化としては確認できませんでした。
怒る頻度についても、一見プログラムの参加前後で変化がない結果となりましたが、詳細に検討すると、怒る頻度が多かった方7名のうち4名が怒る頻度が減っていました。怒りは,子育てにおいてよく起きる感情なため、なくなることはないかもしれません。すると、もともと怒り得点が低い人は、変化がないと考えられます。
プログラムに参加していなかった一般の養育者の方に、プログラム参加者と同程度の間隔(2ヶ月程度)を開けて、同じ質問をしたところ、ほぼ変化がありませんでした【調査研究2】。
したがって、プログラム参加者の変化は、プログラムの効果だと考えられました。
4. 一連の研究で得られた示唆 ー怒鳴らない・たたかない ポジティブな子育てのためにー
怒鳴らないたたかない子育てのためには、体罰は子どもの学習には効果がないことや、体罰が逆に子どもの問題行動のリスクを高めることなど、正しい情報を知ることが役立つと考えられます。
子どもが成長途中でする一般的な行動(泣きやかんしゃく、自己主張など)を、「わがまま」や「悪い子」と養育者が誤解しないように、子どもの行動の理由を知る機会がたくさんあることが大切だと思われます。
怒りの表現の仕方として、破壊的な攻撃的な方法で表現するのではなく、子どもとの間で生じた問題を解決するよう、葛藤解決スキルを学ぶことが有効だと思われます。
ポジティブな子育てのためには、養育者が「子育てできる」と思えるように支援されることが大切です。
養育者のための前向き子育てプログラムには、養育者の自信を高めたり、子どもに対する理解を高めたり、体罰への容認を減らす可能性が示されました。怒鳴らないたたかない子育ての具体的な支援になると考えられました。
Comentarios